No.42 人形の心を表現する②

「喜ぶ者といっしょに喜び、泣く者といっしょに泣きなさい。」

ローマ人への手紙12章15節

「人形の心を表現する」というテーマで、人形の「心」と「台詞」と「動 き」の関係を考え始めたわけですが、今回は、前回に記した「腹話術は二本 線だ」という視点とは相反するような事実について考えてみましょう。つま り、「腹話術はひとり芸だ」ということです。今さらこう言っては元も子も ないようですが、腹話術とは、“腹話術師本人が、もともといのちのない人形 を操って、ひとりで何もかもこなし、まるでふたりで会話をしているかのよ うに演じる芸”なのです。

今までは、「人形にも心があるのだ」という前提で、その心を表現するに はどうしたらよいかを考えてきましたが、そのためには、この「ひとり芸」 の原点に立ち返って、自分自身と向き合う必要があるということに気づきま す。すなわち、人形の心をいかに豊かに表現するかを考えるなら、術者本人 の心がいかに豊かであるか、ということが問われてくるからです。そうです。 すべては術者の感性にかかっているのです。

ここで、人間は感性豊かな人とそうでない人がいる、というような論議は 必要ありません。神様は、私たちすべての人間を、まことに感性豊かに創造 してくださっています。ただ、その感性が呼びさまされ、表現されるまでに は、それなりのステップが必要だということです。ここでは、そのためのい くつかの段階を記してみたいと思います。

原本を熟読し、味わう

今までは主に聖書台本について研究してきましたので、ちょっと気分転換 をして、童話とか絵本を題材に考えてみましょう。実際のところ、私たちの 感性を磨くために、古典的な童話や絵本は大変役に立つものです。なぜなら、 聖書と違って、論じている部分が少なく、短い文や絵で表現されているので、 理屈よりも目でみて感じるところが多いからです。

ひとつ具体例として、長年のベストセラーとなっている『かみさまからの おくりもの』(作・ひぐちみちこ)を取り上げてみましょう。この本は、幼 児から大人まで、幅広く愛読されている絵本ですが、なぜこれほどに読まれ るのでしょうか・・・まず、登場する5人の赤ちゃんはどんな様子ですか。 そして、その赤ちゃんたちそれぞれに、神様が天使を遣わして与えてくださっ た贈り物とは、どんなものだったでしょうか。それをいただいた赤ちゃんは、 どんな子どもになりましたか。その姿は、多くの親や世間の人々が喜び、尊 ぶものでしょうか。そうでないとしたら、なぜなのでしょうか・・・大きな かわいい絵の間に単純なことばが並んでいますから、まずは、じっくり味わっ てみてください。色々考えてみてください。自分自身の子ども時代のこと、 親から言われたことばや社会の評価など、そしてその都度感じてきたことも 思い出してください。絵本はじっくり味わい、思いめぐらすことに時間をか けることが大切です。

作品の背景を知る

次に、この絵本を描いた作者が、どんな人物で、何がきっかけでこの本を 描いたかを調べられるなら、是非関係のある他の本を探しましょう。幸いに、 ひぐちみちこさんは、『子どもからの贈り物』という本を書いていて、それ を読むと、この絵本の背景と、作者の価値観がよくわかります。(古本を安 く手に入れられますよ!)

このように、台本にすべき絵本一冊だけでは、なかなか意味を感じ取れな いことも、他の関連した著書を参考にすることによって、その絵本の真意を 汲み取ることができ、共感することもできるわけです。この「共感」できる かどうかということが、台本作成に大きく影響してくるのです。

共感したことを土台として台詞を考える

腹話術の台詞というのは、術者自らが、その作品を通して感じたことや考 えたことを元にして、それを人形に分かち合い、ふたりで対話していく、と いうものなのです。その時に、術者とは違った考え方や反応をするのが人形 であり、だからこそ、絵本をあえて腹話術で表現することのおもしろさと立 体感が出てくるわけです。是非試してみてください。

2017年7月28日