No.51 生きた人形の動き①

- 人形の機能的問題 -

「神である主は、その大地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。それで人は生きるものとなった。

創世記2章7節

かつて、私は「腹話術に大切なものは3Kである」と考えていました。それは「顔、声、 ことば(台詞)」のことです。けれども最近は、もうひとつ重要なものがあると気づきまし た。それは「(人形の)動き」のことです。確かに、有名なアメリカの腹話術師エドガー・ バーゲンの相棒のチャーリー・マッカーシーという人形には、大したからくりはなく、目 も眉も動きませんし、動くのは口だけでした。それに両腕も短いし、バーゲンはチャーリ ーのボディーを色々な角度で動かすということには無頓着であったように感じられます。 せいぜい頭の角度の変化くらいで、彼の場合は、ユニークな声と台詞まわし(「間」を含め て)が印象的でした。

それでも、私自身が腹話術ではなく、ノントーキングパペットを用いて演じるようにな ってからは、パペットは声を出さないわけですから、体全体の動きが非常に重要になって きたのです。まさに“(目ではなく)動きは口ほどに物を言う”世界になりました。

そういうわけで、パペットで腹話術をやっているみなさんにとっても、声と台本の研究 に加えて、「生きた人形の動き」を学ぶことは、大変有意義なことだと思います。けれども、 この課題も実に奥が深いですから、思いつくまま何回かにわけてポイントを整理していき ましょう。

まずは、みなさんが使っているパペットはどんな造りであるか、という問題があります。 そもそも、そのパペットはどこが動くのか―すなわちどんな表情が可能なのか―を把握し なくてはなりません。

手で人形を操作する場合

普通、パペットを一体ずつ使う場合、みなさんは右手(左利きの人は左手)をボディー に入れて操作することになるでしょう。その時、まず右手だけで、パペットを動かしてみてください。人形スタンドを使った場合と使わない場合とでは違ってきますので、どちら の場合も試してみてください。テキスト『腹話術の基礎』(15-16頁)を参考にしながら、 頭、胴体、手、足・・・さらにどこを動かせるか、鏡を見ながら色々試してみましょう。

そうしてから、今度は左手(左利きの人は右手)を加えて操作してみます。つまり、両 手による人形操作になるわけです。みなさんは、今まで「人形を動かすには空いている手 を使う」と考えてきませんでしたか?しかも、台本の台詞ばかりに気を取られてしまい、 その片手さえ十分に使ってこなかったのではないでしょうか。ですから、まず台本のこと はさておき、自分のパペットを両手で操作すると、どれほどの動きができるのかを、鏡の 前で研究することをお勧めしたいのです。(鏡を使うのは、「自分がこう動かすと観客には こう見える」ということを確認するためです)

人形操作棒を使う場合

パペットの片手、または両手に操作棒をつけて、それによってパペットを動かす場合に は、相当な練習が必要です。この方法にはメリットもデメリットもあります。メリットと しては、手で操作する場合とは違って、術者がパペットとある程度距離を保ちながら、棒 の長さの分だけ大きな動きができることです。ただし、逆に言えば、手を使う場合の親密 さは表現しにくいことになりますし、パペットの動きが棒のついた手や上体だけに限られ やすいということです。(途中で棒を手放すと不自然ですし、足を組んだりということはむ ずかしいでしょう。)いずれにしろ、この場合は、棒を1本使うだけよりも、2本使った方 が表現力が上がることでしょう。

こういうわけですから、みなさんのパペットがまるで生きているかのように、自由自在 に動く(ように見える)までには、それなりに、動きの研究に集中する時間が必要だとい うことがおわかりになったと思います。台本作りに疲れたり、ちょっと時間に余裕のある 時に、是非、自分のパペットと一緒に「体操」をしてみてください。

2018 年6月22日