No.25 台本を心に刻む
「私がきょう、あなたに命じるこれらのことばを、あなたの心に刻みなさい。」
申命記6章6節
台本を書いて、添削し、完成したら、今度は「覚える」必要があります。この覚える作業を軽視すると、せっかく鍛錬して書いた台本もいのちを失ってしまうからです。今日はいかにして、効果的に覚えることができるか、またそうすることの意味を考えてみましょう。
台本を覚えやすくする
まず、台本はあらかじめ覚えやすくしておくことが必要です。そのためには、内容(場面)ごとに、番号をふって、適当な長さに区切っておくと効果があります。
黙って台本を見つめる
覚える作業には個人差がありますから、どんなスタイルでも良いわけなのですが、体験的にお勧めするのは、まず、「声を出さないで覚える」方法です。これは、あたまから台詞を唱えるより、喉が疲れませんし、まず、視覚的に暗記することができるからです。台本を黙ってじっと見て、そこから思い浮かべられる情景を想像します。そうすると、単に字面を目にやきつけるだけでなく、心に登場人物の姿や動きが刻まれ、さらに覚えやすくなり、忘れにくくもなります。
声に出して読み上げる
じっくりと情景を把握したら、次には実際に台詞を読み上げていきます。術者と人形の声を分け、実際に話しているように、抑揚、リズム、間などを考えながら朗読します。(この段階では、読み上げて修正することはすでに終わり、台本は完成しているという前提です。)このとき、最初は全体を流しますが、あとは、場面ごとに繰り返し練習するとよいでしょう。
人形をもって一緒に覚える
台本だけの朗読では、実際に人形を動かした場合の呼吸がわかりませんから、だいたい覚えたら、人形をもって台本をちらちら見ながら、練習してみます。これを繰り返しながら、一言一句、完全に覚えるように、繰り返します。台詞は、「一言一句」正確に覚えることが大切です。そうしないと最後まで、うろ覚えになってしまい、「選ばれたことば」が失われてしまうからです。
鏡の前で練習する
台本を暗記できたら、人形と一緒に鏡の前で練習します。このときは、台詞の言い回しと共に、人形の動きを研究します。人形操作は、ポイントとなる箇所は、台本にト書きしておくと良いでしょう(譜面台を使用すると便利です)。この鏡の前の練習は、本番直前まで毎日続けることが必要です。新作台本で10~15分位の長さなら、一日2回ずつ、集中して練習したとして、本番前2週間は必要です。(再演なら1週間)
心に刻まれるまで繰り返す
以上の練習は、家ですることですが、台本を覚えるには、電車の中や散歩しながらなど、外でもすることができます。それには、ICレコーダーなどに録音して、イヤホンで聞いたり、電車の中で台本を見たり、見ないで頭の中で台詞を唱えたりすることができます。とにかく、わずかな時間でも見つけて、あらゆる方法で繰り返し練習するのです。そうすると、単に台詞を覚えるだけではなく、その話の内容がすっかり心に刻み込まれ、メッセージが何であるかが、自分で明確になってきます。
覚えたら忘れる
これほど暗記することをお勧めしてきましたが、最後にお伝えしたいことは、台本は、覚えたら忘れることが重要です。また、鏡からも離れることです。なぜなら、あまりにも暗記した状態で本番を迎えると、実際に目の前にいる観客と向き合えなくなるからです。腹話術は本番が勝負です。術者も人形も、まるで初めてその会話をするかのように、新鮮に、考えたり、驚いたり、笑ったりしながら演じます。台本を覚えることは、本番で生きた会話になるための備えなのです。
2013年10月25日