No.78 豊かな表現力をめざして ②

人形の心を表す台詞回し

「私は声をあげて主を呼び求める。すると 主はその聖なる山から私に答えてくださる。」

(詩篇3篇4節)

 前回は、腹話術の表現を豊かにするために、まずは「術者の顔」の表情について考えましたので、今回は、人形(パペット)の表情について考えてみましょう。表情といっても、「顔」に関して言えば、いわゆる腹話術人形でしたら、口だけでなく、目や眉も動く造りになっていますので、それを動かせばよいわけです。けれども、ソフトパペットの場合は、口だけしか動きませんので、いったいどうしたら表情を出せるのでしょうか。
それは、ひとえに「声」にかかってくると思います。つまり、「台詞回し」をどうするかによって、パペットの「心」が伝わり、その結果、まるで「顔」まで違って見えてくるのです。(もちろん、それに加えて、ボディーの動きが関わりますが、その点については、次回に取り上げることにします。)
 そこで、パペットの心まで表現できるような台詞回しについて、考えていきますが、その前に、パペットが無表情になる原因を考えてみましょう。

1.人形に表情がない原因

(1)感情を表すことばを使っていない。
 まずは、台本が問題です。そもそも、人形の台詞そのものに、喜怒哀楽を表したり、心の機微を表現する要素がないとすれば、どんな台詞回しを試みても、表情は出ないでしょう。ドラマの脚本が悪いために、俳優がどんなに工夫しても、おもしろさが出せないのと同じです。まずは、台本上の人形の台詞そのものが表情をもっているかをチェックしましょう。
(2)台本を覚えていない。
 何度も繰り返すようですが、術者は台本を暗記していない限り、自分の台詞も人形の台詞も、余裕をもって語ることはできません。うろ覚えで「次の台詞はなんだっけ」と頭の中で考えているうちは、術者の台詞も人形の台詞も“棒読み”のようになったり、不自然な“間”があいたりしてしまいます。とにかく、台本は必ず暗記することです。

2.人形が表情豊かになるために

(1) 人形の声の音域を幅広くする。
 私たち人間は、それぞれユニークな声質をもっていますが、同じ声質でも、声の調子で、色々な気持ちを表現しているものです。それと同様に、人形の声も、同じ“頭声”でも、音域というものがあって、高調子であったり、低く呻いたりすることができます。術者は人形の声質を一定に保ちながら、台詞によって、声量や音程の高低に変化をつけるとよいでしょう。
(2) 台詞の言い回しを工夫する。
 多くの場合、台詞が退屈に感じられるのは、淡々と同じリズムになってしまうからです。もっと生き生きとするには、まずは「間」の取り方が大切です。ゆっくり話す、早口でしゃべる、とぎれとぎれにつぶやく、間髪を入れずに答える、など、人形の台詞の語り方に工夫をもたせてみましょう。
(3) 術者の台詞との掛け合いで決まる。
 よく言うことですが、腹話術は“漫才”のようなものです。もちろん、一人の人間が二人の人格を表現するという意味では、漫才とは違いますが、言わば“一人漫才”です。特に台詞の掛け合いに及んでは、「まるで二人の人がお互いにぼけたり、つっこみを入れたりして、やり合っているように聞こえる」ことが必要です。ですから、人形だけが、相手(術者)の語り口と関係なく、勝手に早口になったり、ゆっくり話したのでは、会話がちぐはぐになってしまいます。術者自身も、自分の台詞を感情をこめて、人形に対して本気になって相対するという態度が必要なのです。つまりは、人形が表情豊かに語るためには、術者自身が、「この子は生きている」という“錯覚”をもっていなければならないということです。
そもそも、腹話術は「錯覚の芸」だということを忘れないでください。

2022年11月25日