No.14 人形が生きるために
「神である主は、土地のちりで人を形造り、その鼻にいのちの息を吹き込まれた。そこで、人は、生きものとなった。」
創世記2:7
かつて、私が最初に腹話術の証し本を書いたとき、タイトルを『人形は生きている』として出版社に持ち込みましたら、出版はしてくれましたが、タイトルは『腹話術とのおかしな出会い』と変えられてしまいました。腹話術を知らない方々にとっては、ただの人形が“生きている”と表現されると「気持ちが悪い」のでしょうか。
しかし、腹話術師にとって、人形に一度手を差し込んだら、その人形をどのように生かすか(生きているように見せるか)が勝負どころとなります。観客から「○○ちゃんが、まるで生きているみたいだった!」と言われなければ、腹話術の世界は展開できないのです。
そのためには、演技する間だけではなく、日頃から人形をどのように扱うかが問われてきます。そこで、今日は、人形を生かすための日頃の心遣いについて、考えてみましょう。
1.人形をトランク(バッグ)の中に放置しない。
メインキャラクターが何体にもなって、部屋が狭いという場合は別として、あなたの一番の相棒は、常にあなたのそばに置いてください。(椅子にこしかけさせるとか)そして、毎日顔を合わせ「○○おはよう」「おやすみ」と声をかけるのです。疲れて練習が出来なくても、これを欠かさなければ、あなたと人形の心の距離はそう遠くにはなりません。「人形とできるだけ共にいる」ことがまずはコミュニケーションの第一歩です。(小さな子どもがいて、人形に触るのでしまっておくという場合は仕方がないですが、それでも、子どものいない時間に人形を出す努力が必要です。)
2.人形と話し(分かち合い)、祈る。
人形を抱くと、すぐに発声練習をして、何か台本を演じなければいけないと考える必要はありません。その前に、とにかく人形を抱いて、今日は何があったとか、こんなことで困っているとか、人形に話しかけてください。人形は別に模範解答をしなくても良いのですが、相づちを打ったり同情したりしてくれるでしょう。また、人形に今何を考えているか、感じているかなども聞いてみてください。人形は必ず答えてくれます。これが互いの分かち合いです。そうしたら、最後に手を握り合って一緒に祈りましょう。お互いのために、短くとりなしの祈りをします。
これは、人形があくまでも自分とは違う一人格をもった存在であるという感覚を身につけるために、非常に重要な関係作りです。また、演じるときにアドリブがきくようにするために、日頃の会話はとても良い訓練になります。
以上の2つが人形とのコミュニケーションを保つために大切なことですが、他にも色々なことを試している方々がいます。(ただし、これは人によって違いますので、必須項目ではありません。あくまでも参考にしてください。)
- 人形と一緒に寝る。(自分が元気なときは効果的ですが、疲れているときは、かえってプレッシャーになることもあります。また、寝相の悪い人は要注意ですね。)
- 人形の洋服を四季折々に替える。(人形でも、夏は暑いし、冬は寒いのです。人形の気持ちになって、似合う衣服を着せてあげましょう。ただし、「常に同じ服装である」ことが重要なこともあり、それは皆さんの考え方次第です。)
- 人形専用の部屋をもつ。(これは、部屋数の多い家に住んでいないとむずかしいですが、理想的な環境です。エドガー・バーゲンは、チャーリー・マッカーシーのために子ども部屋をもっていたそうです。)
- どこへ行くにも、人形と一緒に行動する。(ある人が人形と一緒に新幹線に乗り、人形を隣の座席に座らせたそうです。そうしたら、車掌さんが来て「乗車券を見せてください」と言ったとか・・・また、ある人は人形を背中におぶってバイクを走らせたら、人形の首が飛んでこわれてしまったそうです。くれぐれも人形はお大事に。)
2012年7月13日