No.12 ステンドグラス

「イエスは再び人々に語られた。『わたしは世の光です。わたしに従う者は、決して闇の中を歩むことがなく、いのちの光を持ちます。』ヨハネの福音書8章12節

 周囲の反対を押し切って、“留学”した私でしたが、実のところは、“日本脱出”と言うべき精神状態でした。「もう日本には帰りたくない」というのが本音だったのです。確かに、ある人々には「あなたは日本人らしくない」「日本にはあなたと結婚できるような男の人はいませんよ」などと言われ、人知れず傷ついていた私です。あわよくば、アメリカで結婚に導かれたらそれでもいい、などとこれまた妄想に近い心根をかかえていました。
 要するに、私は、まるで糸の切れた凧のように、ふわふわと生きていたのです。(腹話術には夢中でしたが。)神学校の学びは実践的でしたので、本を読むにもレポートを書くにもネイティブの学生の3倍は時間がかかりましたが、曲がりなりにも10年間の奉仕経験がありましたので、「日本では…」と論じていけば、結構高い評価を得ることができました。
 けれども、神さまの目は節穴ではありません。奇跡まで起こして、学びへのドアを開いてくださったお方です。信仰的にも地に足がつかない私を、ほっておくはずはありません。ある出来事を通して、私は自分の本当の姿を突き付けられて、愕然とすることになりました。
 事の発端は「ライフスパン・ディベロップメント」という授業でした。分厚いテキストを読んで、自分の誕生からこれまでの成長過程をすべての領域において分析し、トレースしなさいという課題が出たのですが、その作業をしているうちに、「私ってどこかおかしい。すごく偏っている」ということに気が付いたのです。
 ちょうどその頃、私はあるアメリカ人男性と交際していて、彼が実は新生していないどころかヒューマニストだとわかり、大きな葛藤をかかえていました。信仰的には到底受け入れられないにもかかわらず、なお彼に対する強い情愛を断ち切れず、自己矛盾に陥って、ほとんどノイローゼ状態になってしまったのです。
 「このままでは私はまた倒れてしまう」と感じていたところ、幸いにも、同じキャンパスに、カウンセリングセンターがあり、学生は非常に安い料金で助けを得ることができるとわかりました。なんという神の恵みでしょうか。

 私を担当してくださった女性カウンセラーは、年配の既婚者で、大変包容力のある方でした。それから約一年間、私は毎週、一回45分のカウンセリングを受けることになりました。
 ああ、その場が当時の私にとって、どれほど尊い空間であったことでしょう。(どんな会話がなされたかは、是非私の著書『仮面を脱いで』を一読していただきたいです。)
 生まれてこの方、誰にも愛されたという気がしない。受け入れられたという気がしない。従って、神の愛さえわからない。― というとんでもない私の心の内の闇の部分が、彼女の深い愛に裏打ちされた的確な質問によって照らし出され、慰められ、私は生まれて初めて「イエスさまの愛って、こういうものだろうな」と感じることができ、涙がとめどもなく流れることがありました。
 彼女は、カウンセリングの中で、何度も「その時、あなたはどう感じたの?」と聞いてきましたが、私はいつも「私はこう考えました」と答えたものです。これまでの私にとっては、感情なんてあてにならないどうでもよいもの。物事は正しいか間違っているかが大切なのだと考えていたのです。けれども、私の内なる人は、実に敏感に物事に反応し、感じ、喜怒哀楽をもっていたのに、私はそれを自分で押し殺してきたのでした。人間の行動の原動力は、心の奥底の感情によって大きく左右されるものなのだと、あらためて認識した次第です。

 彼女との会話は、残念ながら私が神学校を卒業してしまったために中断し、大事な問題の根本的な解決は、それから10年以上も経ってからになりましたが、主は真に、私の心の癒しの道をアメリカで開いてくださったのだとわかり、御名をあがめています。
 “自分が誰だかわからない”私にとって、「あなたはステンドグラスなのよ。だから、サン(太陽のSun と、御子のSon をかけて)が必要なのね」という彼女のひとことが、生涯の宝物となりました。後に、私はこんな詩を書いたものです。

「ステンドグラス」

あなたはステンドグラス とても不思議なステンドグラス 誰にも造れない 誰にも換えられない 誰にも壊せない この世でたった一つのステンドグラス それなのに あなたは暗闇にいる 誰もあなたに気がつかず 立ち止まらず 振り向かず あなたさえ自分がどんな姿なのかも知らず 虚しく立ち続けるだけ でも ここにあなたを照らす方がいる 光なる方 サン・オブ・ゴッド 太陽の翼 その方の息吹があなたを貫き その翼はあなたをかかえ抱き上げ そうして あなたの姿は初めてこの世に浮き上がる 闇の中から凛然と ああ 何という切り口 何という色合い 何という神々しさ 立ち止まり 目を凝らし ため息をつき そして人々は問うでしょう 一体デザイナーは誰ですか その時 あなたは微笑んで答えられる 私はステンドグラス とても不思議なステンドグラス 誰にも造れない 誰にも換えられない 誰にも壊せない この世でたった一つのステンドグラス 神さまの宝物

2024年11月18日